#新生
神はノアと彼の息子たちを祝福して言われた。
「産めよ、増えよ、地に満ちよ。…」
(創世記9:1、7)
+宗教学者M.エリアーデは『世界宗教史』の中で、「メソポタ
ミアの宗教」に触れ、そこで伝承されている諸洪水物語を検証
し、こんなことを言っています。多くの洪水物語は、春に芽生
えた命が、夏の光の中で育ち、秋に実り、そして冬に枯れるよ
うに、世界もまた、「生存し、生産するという単なる事実によ
って、しだいに退化し、ついに衰亡する。」その「退化し、衰
亡した」世界を新しく活力に満ちた世界に作り替えるために、
神々は大洪水を起こした、と。
+つまり、イスラエル以前の多くの文明が継承してきた「洪水物
語」は、退化し、衰えた世界を、原初の活力に満ちた世界に再
創造することに重点があったというのです。換言すれば、そこ
には洪水後の世界は、生まれたての生命のように汚れなき命に
満ちているという理解、信仰があるのです。
+しかし、聖書が描く洪水後の世界は、創世記1章に描かれてい
る地上の楽園では、もはやありません。ここには天地万物が、
重大な混乱に陥り、腐敗してしまった事実が描かれているので
す。それを象徴するのが、「肉食と殺人」です。
動いている命ある者は、すべてあなたたちの食糧とするが
よい。(9:3)
あなたたちの命である血が流された場合、わたしは賠償を
要求する。(9:5)
洪水後の人間は、〈血の犠牲〉の上に成り立つ世界を生きる以
外にないのです。
+しかし、ここにあるのはそれだけではありません。この死と敵
意が支配する世界を、神の祝福が包み込んでいると語るのが冒
頭に掲げた聖句、「産めよ、増えよ、地に満ちよ」なのです。
ここに並んでいる「祝福」の言葉は、創世記1章で、人間が
〈神の像〉に造られたときに語られた言葉と同じです。換言す
れば、死と敵意が支配する世界にあっても、神の像としての人
間の在り方は失われていないのです(9:6)。
+何故人間は洪水の後に、古び衰える世界で、なお〈神の像〉を
保持し得たのか。エフェソ書にこんな言葉があります。
神は、わたしたちをキリストにおいて、天のあらゆる霊的
な祝福で満たしてくださいました。天地創造の前に、神は
わたしたちを愛して、御自分の前で聖なる者、汚れのない
者にしようと、キリストにおいてお選びになりました。
(1:3−4)
+このキリストにある神の選びこそ、洪水後の世界の「新生」で
はないのか。つまり、人類の未来は、キリスト者の中で始まっ
ているのです。キリスト者は、「未来に続いていく、流れの見
える」存在なのです。