#限界を超えた世界
神は言われた。「光あれ。」
(創世記1:3)
+「光あれ。」これは神が初めて語られた言葉である。私はこの
言葉に強く惹かれる。人類はこれまで何度、この言葉を口にし
てきたことか。そして今また、私たちはこの言葉を口にしてい
る。アフリカに、アジアに、中東に、南米に、…そして私たち
の国に、私の家庭に、私の心に、「光あれ」と。
+いま、私たちを取り囲む地球環境は危機的な状況にある、と多
くの心ある人々が警鐘を鳴らしている。今から37年前、ロー
マ・クラブ(著名な実業家や政治家、科学者などの国際的な集
まり)から出された、『成長の限界』という本がある。副題は
「生きるための選択」となっている。
+それは1971年の時点で、当時の資料を基に21世紀の人口
および産業の成長をコンピュータによって予測したものであ
る。それは大きな反響を呼び起こした。コンピュータを駆使し
て人類の未来を予測したということで、否応なしに関心が集ま
ったのである。その論旨を要約すると、このまま人口が増え続
けたら、また経済が現在のペースで成長し続けたら、今後10
0年の間に地球上での成長は限界に達する、というものであっ
た。
+それから20年後の1991年、その時と同じ研究チームがも
う一度、さらに高度のコンピュータ・モデルにデータを入れ直
した。その結果、現実は予測をはるかに上回るスピードで進ん
でいたというのである。多くの資源が、また汚染の流出が、す
でに持続可能な限界を超えていることが分かったのである。
+この現実を前にして、この研究を中心になって指導したメドウ
ズ教授は次のように語った。限界を超えてしまった人類社会に
もし未来というものがあるとするならば、それは後進的な、速
度を緩めた、癒しの未来以外には考えられない、と。そして、
もし限界を超えて持続可能な社会を作ろうとしたら、「生産性
や技術以上のもの、つまり、成熟、憐れみの心、知恵といった
要素が要求されるだろう」と。
+一体、この人は何を語ったのだろうか。これは、コンピュータ
を駆使して未来を予測する科学者の言葉ではない。世界の恐ろ
しさと自己の無力さの中で、根本的な問いを発する深淵を前に
した人間の祈りである。
+教授は言う。技術的、経済的には、持続可能な社会への移行は
可能であるし、さほど難しいことでもないと信じている。だが
心理的、政治的には、人びとに二の足を踏ませるような選択で
あることも承知している。それは、あまりに多くの希望が、あ
まりにも多くの人びとのアイデンティティが、そして工業化さ
れた現代文化の多くが、果てしなく続く物質的成長という前提
の上に築かれているからだ、と。
+私はこの言葉を読みつつ、日本における分子生物学の草分け的
存在である渡辺格が『人間の終焉』を結んだ言葉を思い起こし
た。渡辺は次のように記して筆を置いた。「われわれは、時間
的、環境的に世界をかえる余裕をもはや失っているのである。
人類は一歩一歩終焉に近づいている。…『人間のそして人類の
終焉』は意外に早いのではなかろうか。」
私たちには滅びを待つことしかできないのだろうか。
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