#不安と恐怖
+あの宗教改革以来、プロテスタンティズムは各種の分派の温床
となるとともに、学問と技術のすみやかな発達を促し、これに
目を奪われた人間の意識は、予測しがたいもろもろの力をそな
えた無意識というものの存在を忘れてしまいました。第一次世
界大戦の破局と、これにつづいて起こった精神の根深い欠陥を
示す数々の異常な事件とによって、はじめてわれわれは、白人
種の精神は一体本当に健全なのだろうかと疑い始めたのです。
…今や再びわれわれは、人間同士がこの世の楽園を築くのだと
か、その他これに類した児戯にもひとしい理論をめぐって、互
いに殺戮しあうのをまのあたりにしています。以前には、教会
という巨大な精神的体系の中で、程度の差こそあれ、うまく抑
制されたり馴化されたりしていた冥府の―「地獄の」とはあえ
ていいますまい―もろもろの力が、今や、魂または精神の視点
からは一向に魅力のない国家的規模の奴隷制度を作っている、
ないし少なくとも作ろうと試みていることは明瞭です。今日で
は、単なる人間の理性をもってしては、いったん爆発したこの
火山を抑えるという巨大な仕事を為しとげるには十分でないこ
とを確信している人びとが少なくありません。
事態のこのような推移は運命的なものですから、私としては、
その責任をプロテスタンティズムやルネッサンスに帰すること
は致しますまい。けれども、ただ一つ動かしがたいことがあり
ます。それはつまり、プロテスタントであると否との別なく、
あらゆる現代人が、ローマ時代以来慎重に築き上げられ補強さ
れてきた教会という防禦壁を広範囲にわたって失っており、こ
の喪失の結果として、世界の破壊と創造との根源である灼熱地
帯へ一歩ずつ近づいているということです。人生の速度と密度
は増し、われわれを包む世界は、不安と恐怖の波に揺り動かさ
れ、押しひたされています。
C.G.ユング 『心理学と宗教』
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